2011年10月14日金曜日

Jobsが守ろうとしたもの

毎日.jpの「時代の風」を読んで、少し違和感を感じた。

実際iOS上のソフトやコンテンツの流通に対し絶対的な決定権を維持し、維持し続けるために自らの支配の及ばないアプリケーション流通を可能にするFlash等の技術は、どんなにユーザーの要望が強くても受け入れなかった。(中略)しかし、ネットの世界の変化は早い。アップル社が推していたインターネット上の最新技術であるHTML5は、Flash以上にアプリケーション流通をOSから自由にする技術に成長した。ジョブズが必死で維持していたiOS上での流通支配権は早晩崩れる運命にあった。


はたして、Jobsが守ろうとしていたのは流通支配権だったのだろうか?
ここ数年のJobsは、以前にも増して達観していた。もちろんAppleの収益が伸びることはうれしいが、それが目的ではなく、もっと大きなビジョンの下でどうすればより良い世界を作れるか、ということに腐心していたように思う。そう考えると流通支配権なんてせこい話はどうでも良かっただろう。

Jobsが守ろうとしていたのは、ユーザーが安心して使える環境だと思う。その証拠は、Pixer時代の逸話にある。

ジョブズが創業したもう1つの会社。ピクサーアニメーション・スタジオのジョン・ラセター氏が以前、こんな話をしてくれた。

映画「ファインディング・ニモ」の試写を見に来たジョブズが、「海の中の海藻の動きが不自然だ」と指摘したところ、そのコンピューターグラフィックスを担当しているエンジニアが「バレたか」という顔をして「今の技術で、その海藻を自然な動きにしようとすると、映画の公開が1年遅れるか、膨大な追加予算がかかる」と言い訳をした。

ジョブズはそれを制し、素晴らしいストーリーとリアルなグラフィックスで、すっかり作品の世界に没入している観客を、たった1本の海藻の不自然な動きで夢見心地からさませて本当にいいのか、といったことを問い返した。


コストよりも時間よりも、観客のエクスペリエンスを重視する姿勢が伝わってくる。
Jobsにとって、利用者に最高の体験を提供するにはどうすればよいかが最大課題であって、そこでどの程度儲けるかは二の次だったのだ。ましてや支配権なんて言葉は、まったく当てはまらない。

携帯電話業界に参入することを決めた段階で、iOS(当時はiPhoneOS)端末がかなりのボリュームになることは見えていたはずだ。また、市場がつくりあげる段階であることを考えると、シェアも相当なものになることは想定内だろう。今までのPCビジネスを考えると、それはすなわちウィルスなどとの戦いになるということだ。しっかりコントロールしなければ大変なことになることが自明だったとすれば、Webアプリしか許可しなかったり、AppStoreの規制を強めたりすることは、当然の策だったのだろう。

もともとWebアプリしか使えなかった時代もあったことを考えると、HTML5によってアプリ並みの機能を持たせられることは福音なのかもしれない。本来あるべき姿に近づいたと考えれば。

iOS端末の利用者はJobsのポリシーによって、様々な攻撃から守られてきた。そしてそれによって、最高の体験を得てきたことに感謝したい。

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