2010年10月15日金曜日

一見、非合理的

一橋大教授 楠木健さんの著書「ストーリーとしての競争戦略」でのキーワード。

楠木教授は元ソニー、現クオンタムリープ代表の出井さんと懇意らしく、Asia Innovation Forumでは毎度司会を任されているので、割と有名な経営学者だ。AIFでの司会を聞いていても分かるように、物事を理路整然と、かつ分かりやすく翻訳する事が上手で、難しい事をさらに難しくして伝える野中郁次郎先生とは、ある意味で対極をなす。

「ストーリーとしての競争戦略」では、(戦略)全体と部分の、合流/非合理に関するチャートがある。ストーリーの巧拙はこの組み合わせによって表現できるとする。ここで、最も良いのは全体合理・部分非合理という組み合わせだ。

実は、もう少し日本的に総論・各論で表現した方が分かりやすいかも知れないと思っている。少しニュアンスが違う気もするが。

つまり、総論賛成・各論反対がベストな組み合わせとなる。事業全体が目指すべき方向は理解してもらえるが、そこに至る部分やプロセスがユニークで積極的な賛同を得られない、というパターン。

そう考えると、多くの成功モデルは総論賛成・各論反対の形を自然と取っている。前のエントリーからの流れで言うと、大政奉還もその一つと言える。

今のままでは日本がダメになる。日本を生まれ変わらせなければならない。そのためには幕府に政権の座から降りてもらう他ないという総論は、武力倒幕派も大政奉還派も同じで、既に議論の余地が無い。

一方で、長州征伐で弱体化が明らかとなった幕府に対して、勢いに乗じて武力でひっくり返してしまおうという考え方が主流だったことは、想像に難くない。そのような中で、大政奉還という実現可能性が低く、徳川家を完全には排除できない策を諸手を上げて賛成することができる人はいなかっただろう。

これこそ、楠木流に言えば全体合理・部分非合理であり、より分かりやすく言えば、総論賛成・各論反対ストーリーだろう。そして、それが正解だったことは歴史が証明している。

他にも、事例はいっぱいある。日本でも阪急電鉄、ソニー、ガリバー、ヤマト運輸、セコム、アスクル、マブチモーター、日本電産、ソフトバンクなど。アメリカでもアップル、アマゾン、サウスウエスト航空、スターバックス、デルなど。

目指すべきゴールは、誰もがイエスと言える合理的なものである必要があるが、ただ、その構成部品、プロセス、ストーリーに一見非合理な部分を作っておくことが大事だ。それを無意識や直観ではなく、意識的に組み込むことで再現性のあるイノベーションが実現できる。そうすることで、競合との距離感を一定以上に保つ効果もある。つまり、非合理性が心理的な参入ハードルを築き、競争環境が赤く染まらない。

難しいのは、非合理な部分をうまく合理におっつけていく所で、例えば現実歪曲空間を作り出すと言われるスティーブ・ジョブズや、人の褌も何回も借りたら借り慣れてくると公言する孫正義ぐらいしか、できないことなのかも知れない。

Kozchiも「お店や施設を見つけやすくして、街を活性化する」というゴールは合理的で、否定する人はいないと思う。また、「お店を繋ぐ」という手段やその構成要素は非合理性が高いとも感じている。

あとは、プロセスをうまくゴールに流し込んであげるだけだが、ここは忍耐と地道な努力が必要な所だろう。

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